今は真夏。都会の炎天下の中で、彼女は不自然なくらいの冬服に身を包んで。
 コートに、マフラー、帽子、足元にはブーツ。
 こっちの地方じゃ真冬になっても、流石にそんな服は着ない。流石に、そこまでは
 寒くはならない。
 それを、この炎天下の中で着てるなんて。
 そして彼女はお店の前のデッドスぺースの一角で、暇そうにしていた。
 本当に。暇そうに。
 退屈そうに唇を尖らせて。くるくる回ってみたり伸びてみたり。

(……あの子、何なんだろう……?)

 最初はちょっとだけ見えた姿が、ゆっくりと足を進めるにつれて近づいてくる。
 いろんな人の注目の的になってると思いきや、誰もいなかった。
 誰も、彼女を見ていない。
 こんなにも、不自然なのに。
 おかしいのに。
 景色に調和していないのに。
 誰も、彼女を見ていない。

「……どうして……?」

 僕は、彼女の前で足を止めた。
 彼女は一つも汗を掻いていない。苦しそうな素振りすら見せていない。
 そうして目の前に立っている僕の目を覗き込んで……
 嬉しそうに笑って見せた。

「見つけた!」
「えっ……」
「ああもう、良かったぁ。ここにいるの結構退屈なんだよねぇ。
 人、こんなにいるし、意外とすぐ見つかるかなぁって思ったけど、
 さすがに無謀だよねー。
 年齢だって誰でもいいわけじゃないし。
 でも夏休み中だしさー、学校にはあんまり人いないし」
「何を……言って……」

 彼女が何を言っているのか、わからない。
 見つけるって……何を? 僕に、言っているの?

「もうっ、そんな顔しないの〜。周りから見たら、不審に思われるよ? 
 一人でそんな驚いて」
「ひ、一人でって……、君は……
 君はどうなんだよ? そんな服で……」

 ありえない。こんな真夏に。
 ありえない、ぞわりと背中が寒くなる。額から、汗が落ちる。
 視線を向けることすら憚られるほどの、重装備。

「君の方が、ずっと、目立つ……はず。暑くないの? そんな、服で……」
「ああ、気温に関しては何も感じないの。この服は、飾り。
 君みたいな人に、気付いてもらうための、飾りなんだ。
 あたしの姿は、みんなには見えないんだから」

 なんとなく、気付いてしまう。
 彼女は他の誰の目にも映っていない。
 僕に……僕のような人にしか、見えない存在なんだ。

「それって……。君は……」
「そ。幽霊。そして、君はあたしが見える人。
 あたしはね、君みたいな、幽霊が見える子を探してたんだよ!」
「……どうして……」
「スカウトするためさ! ねえ、学園に入学してみる気はない?」

 このまま、流されるように小さな選択を繰り返して、僕は生きていくのかと
 思っていた。
 けれど、そんな僕を、彼女は見つけてくれた。
 僕を見つけて、すごく嬉しそうな笑みを浮かべてくれたんだ。

「あたしはまつりよ。
 新しく出来た学園に通う、学生さんを探してるの」