奏菜ちゃんはお店に入ってすぐに、メニューを開いて、たくさんのデザートを
 頼み始めた。
「大丈夫なの?」
 という僕の声は届くことなく、続々と可愛らしい小さな器が運ばれてくる。

「ねえ……、こんなに頼んで大丈夫……?」
「大丈夫っ、今日は私のおごりだから♪」
「えっ……、そんな、悪いよ……。それに、お金大丈夫?」
「大丈夫大丈夫ー。今日はね、私へのご褒美なの。入学してから、ずっとどた
 ばたしてたし。ずっとね、お腹いっぱい甘いもの食べたかったんだー」
「というか……、奏菜ちゃん、下宿……? 夕ご飯、出るんじゃなかったっけ? 
 こんなに食べたら、夕ご飯入らなくなるんじゃ……」

 時計を見ると、17時。奏菜ちゃんは19時からご飯だと言っていた気がする
 けど……
 
「ん、夕ご飯? 食べるよ?」
「……そうなんだ……」

 食べるみたいです。

「そんなことより、食べよう食べよう! アイス溶けちゃうもんっ」
「そうだね。ええと……僕も食べていいの?」
「もちろんっ! 好きなの食べていいよー」
「えっと……じゃあ……」

 僕は近くにあった、ミニパフェを持ってきて、一口食べてみる。
 ……美味しい。
 ……美味しいけれど、さすがにこの量を見せられると、食べきれるか心配に
 なるというか……
 食欲よりも心配が勝ると言うか……
 
「う〜、美味しい〜っ。幸せ……
 ああ、次はこっち……。はぁ、これも美味しい……」

 奏菜ちゃんはそう言っていろいろなものに手を伸ばして行く。
 この様子だと心配ないかな……? 本当に一人で食べきってしまいそうだ……
 
「奏菜ちゃんって、甘いもの好きだったんだね」
「うんっ、大好きだよー」
「学校でも時々お菓子食べてるのは見てたけど……」

 僕の見てた範囲では小さなお菓子を持ち歩いてて、たまにみんなに配りながら
 食べるとか、そのくらいかと思ってたけど……
 あと、お弁当の時に幸せそうにしてたり、なんとなく食べるのは好きそうだった
 けど……けど……
 
「……こんなに食べるなんてって、こと?」
「ええと、まあ……そう」
「そんなに頻繁に食べるわけじゃないよ? たまぁにだよっ、たまぁに。
 柊哉くんだって、なんだかお腹いっぱい何かを食べたい時だってあるでしょ?」
「それはあるかもしれないけど……、そんなもんかな。
「そういう感じなのっ。すとれす解消?」
「ストレス……かぁ……」
「あっ、違うよっ。柊哉君たちといるのがストレスとか、そういうことじゃないよっ」
「うん、わかるよ。
 学園に入って、一人暮らしが始まって、……いろいろ、あったもんね。
「うん……、いろいろ……」

 幽霊と、共に暮らす学園……
 あそこにいる幽霊のみんなは明るくて、毎日がばたばたしっぱなしで……
 でも時々、ぐいと現実に引き戻される。
 そこには悲しみが立っている気がして……胸が苦しくなる。