「南須原さん、おはよう」
「…………」
「え、えっと。中條です。同じクラスの……」
「聞いていないわ」
「すいません、誰だったかしらと思われていると感じたので……」
「思ったけれど」

 …………思われてました。

「良かったら教室まで一緒に……」
「別に、いいわ。」
「えっ、いいの!?」
「……あまり、変な声を上げないで。この場所だと、人目に付くから
 仕方なく、よ。
 この間冷たくしたらちょっと噂が立っちゃって……、人前ではある程度
 気をつけるようにしてるの」

「あ、雛菊さんだっ。いいなぁ……私も同じクラスになりたかったなぁ……」
 近くに居た少女が、そんなふうに声を上げる。
 ……どうやら、同じクラスの人にはイメージが悪いけれど、外ではいいイ
 メージで通したいらしい。

「そういうの、気をつけてるんだね。」
「まぁ、ある程度はね。接客業のようなものよ」
「そうなんだ」

 まぁ、お客さんのイメージあっての仕事だもんね……。さすが、しっかり
 しているなぁと思う。
 ……振りじゃなくて本当にイメージが良ければ一番いいと思うけど。

「そういえば、南須原さんはどうしてこの学園に?」
 ふと、思い立って疑問に思ったことを尋ねてみる。けれど、途端に南須原
 さんの表情は強張る。
「…………。そこまで、聞いていいとは言ってない」
「すいません……」

 ……ちょっと、早すぎたようだった……。まぁ、誰にでも聞かれたくない
 ことはあるよな。気をつけよう……

「貴方、あの幽霊とは? まだ仲良くしているの?」
「まつりのこと? ……まぁ、うん。仲は良いかな。
「ふん、先生方の言葉に惑わされないことね。危険な目に遭っても知らない
 んだから」
「南須原さんって、本当は優しい? みんなのこと心配してくれてる?」
「はぁ? そんなわけないでしょう。別に貴方がどうなろうと知ったこと
 じゃないわ」

 怒鳴るような口調でそう言われてしまう。けれど……途端に少しだけ寂し
 そうな表情をしてみせた。
 
「ただ……、本当に、心配ないと思っている人がいて……、本当に幽霊を、
 先生方を信頼していて……。
 それで、傷付く人が居たら……、それは悲しいことだと、思っているけれ
 ど……」
「南須原さん……」
「まぁ、私の忠告を聞かなかったのだから、自業自得だけれど。」
 ……いい人なんだか……、そうじゃないのか……
「特にあの幽霊はちょっと酷い目に遭わないと気が済まないわ……」
「…………」
 ……超根に持ってる!!
「貴方も巻き込まれたくなかったら離れておくことね」
「ちょっとっ! 何する気なの!?」
「別に私は何もしないわよ。何か起きても仕方ないとは思っているけれど。
 貴方も……気をつけることね。
 命の危険に瀕してしまっては、取り返しの付かないことになるのだから。」
「え……?」

 命の、危機?

「南須原さん、それって……」
「雛菊さーんっ!!」

 女の子たちの声援に応えるように、雛菊さんは少女たちのほうを向き、
 笑顔を見せる。

「ごめんなさい、ちょっと……」
「あ……」
 南須原さんはそう言って、女の子たちのところに歩いていってしまう。
「命の……危険って……」

 冗談……だよね?