肩まで切り揃えた綺麗な髪。近郊のお嬢様学校、三咲(みさき)女学園の
 制服。
 卸したてで汚れのない制服は、彼女の礼儀正しく大人しい雰囲気によく似
 合った。
「制服、似合うね」
「ありがとうございます。兄さんも、入学おめでとうございます」
「買い物してきたの?」
「はい、折角の兄さんの入学ですから。お祝い出来ればと思って」

 彼女はそう言って、慣れた様子でキッチンへと入って行く。
 いくつかは家で作ってきたのか、タッパーに入った料理が買い物袋から出
 てくる。

 彼女の名前は、中條杏(なかじょう・あん)。
 杏は、僕の義理の妹に当たる。
 杏が幼いときに、杏の両親が亡くなってしまって……そうして僕の家に引
 き取られた。
 幼かったこともあって、すんなりと僕の家に馴染み、兄妹としてずっと育
 ってきた。

「台所、お借りしますね」
「あ、うん」

 杏は本当にしっかりしている。料理も出来るし、勉強も出来るし、自分の
 ことは一人で何でもできる。
 けれど……僕のことに関しては少し過保護で……

 杏は僕が蘇芳学園に入学を希望していると知って、すぐにこっちの……、
 蘇芳学園から一番近い女学園への編入を決めた。
 誰にも相談せずに、ほとんど独断で。
 気付いたら既に編入試験をパスしていて、住むところも一人で決めていた
 のだ。  反対されることを見越しての行動である……。

 でも、それが許可されるくらい、杏はしっかりしている。
 三咲女学園は歴史ある由緒正しき学校で、エスカレーター式だし、進学に
 関しても推薦が貰えることが多いし……。
 ……確かに、僕の学園よりもずっといいところだよなぁ……。

「……兄さん、ぼうっとして、どうしました?」
「あ、いや、何か手伝った方がいいかと……」
「お気遣いありがとうございます。料理のほうは大丈夫ですよ。よろしけれ
 ば、テーブルを拭いていていただけますか?」
「あ、うん。それだけでいい?」
「はい、とっても助かります」

 僕はテーブルの上にあった布巾を水道で濡らし始める。
 出来れば料理の面で、杏の手伝いをしたいけれど、邪魔になりそうなので
 大人しくしておく。
 
「あ、兄さん、学園のほうは、どうでしたか?」
「ええと……、まだわからないことも多いけど、楽しかったよ」
「そうですか。それは、良かったです」

 本当は心配なことが多いけれど、杏の手前言いだすことは出来ない。
 杏は、僕が幽霊が見えるということを知らない。
 心配性な杏のことだから、ばれたら絶対に良い顔しないだろうな……