空を見上げていた北尾さんは、驚いてこちらを見る。少しだけ警戒されて
 いるようだ。

「こんにちは。北尾さん……だよね」
「…………」
「僕、中條っていうんだけど……えっと、知ってるかな? この間、少し話
 したよね?」
「…………」

 北尾さんは黙ってこくりと頷く。それから僕の方から視線を逸らして、も
 う一度空を見上げた。
「……空、見てたの?」

 北尾さんはもう一度、こくりと頷く。
 ……会話が続かない。大人しい子なのはわかってたけど……
 やっぱり迷惑がられているだろうか……?

「えと、あんまり話したりしたことなかったよね?
 良かったら今度、お話しでもしない? 奏菜ちゃん……て言う子がいるん
 だけど、面倒見いいし、仲良くなれると思うんだ」
「……せっかく……だけど……」
「えっと、そ、そっか……」
「……せっかく……誘ってくれたのに、ごめんなさい……」

 失礼なことを言ったと思ったのか、北尾さんがこっちを向いて補足してく
 れる。

「中條くんが、嫌なわけじゃ、なくて……
 わたし、こんな性格だから、ちょっと怖く感じてしまって……
 ここに来たら、同じ境遇の人がいるはずって思ったの。でも、みんな、楽
 しそうで、明るくて、それで……」
「そっか……。
 確かに、びっくりするよね。僕も驚いたし」

 本来なら、北尾さんのような……大人しいタイプの幽霊のほうが多いんじ
 ゃないかと思う。
 ここに通っている子たちは、みんな明るくて……、僕たち人間ですら、ど
 こか気負けしてしまうけれど。
 
「……うん、だから、どう、接したらいいのか、わからなくて……」
「さっきの時間も、ここに居たの?」
「……気付いていたの?」
「うん……。途中まで居たよね? そのあと、すっと居なくなって……」

 さっきの時間……、先生は僕たちにペアを作らせ、教材を配布した。
 先生にそう言われた瞬間……、北尾さんはすっと、最初からいなかったか
 のように、姿を消してしまった。
 
「そこまで、見てたんだ……。
 まだ学校始まったばっかりなのに、駄目だってわかってるけど……。
 やっぱり、どうしたらいいかわからなくて……。みんなとグループ作るの
 も、あんまり得意じゃなくて……」
「そうだったんだ……。
 僕で良かったら、一緒のグループになるから、気にしなくていいよ?」
「ううん。中條くん、もう一緒に組んでくれる人いるし……」
「でも……」
「気を遣ってもらうのも、やっぱり、わたしのほうが気にしてしまうから
 ……ごめんね。
 そろそろ行かないと、授業、始まっちゃうよ?」
「北尾さんは? 本当にいいの?」
「私は……、次もお休みにする」
「……うん、わかった。無理、しなくていいと思うよ。
 僕で良かったら力になるし、何か一つでも参加できるといいね」

「うん……、ありがとう。
 来てくれて嬉しかった。また……」

「うん、また話そうね」