太陽が沈みかけて行くのを、僕たちは何も言わずに眺めていた。
 ふと、地面を見つめる。
 僕の影が、一人分だけ伸びている。
 僕たちは今、二人でいるはずなのに、本当は僕は一人ぼっちで。
 これからもずっと、ふとした瞬間にそれを気付かされ続けるんだ。

「花時計……、綺麗だよね。
 巡り続ける時間がそこにあって……、本来なら、あたしと柊哉は、出会え
 ないはずだった。
 異なる時間の中で……あたしたちは偶然、出会って……」
「……まつりは、悲しくないの……? そのことが……
「同じ時間の中で、生きれたら確かに良かったけど……、そこじゃあ、あたし、
 死んじゃうしね。
 ……だから、これでいいんだと思う。
 ねえ、来てくれたってことは、覚悟……決めてくれたってことで、いいの
 かな」
「……わからない。ごめん……僕一人じゃ、答え、出せなかった。
 だって……僕の抱いている感情は……良くない、ことだと思う。やっぱり
 ……許されることじゃ、ないと思う」
「うん……。あたしもね、最初はこんなのダメだよなぁって思ってたんだけ
 ど……
 でもね、仕方ないかなぁとも思ってきたの」
「仕方ない……のかな」
「だって、あたしは女の子で、柊哉は男の子で、普通に楽しく『生きてて』
 ……」

 まつりは普通に生活していることを、誰かと話せることを『生きる』という。
 それが時々、小さく胸を刺した。

「あたしは……柊哉に、惹かれ……ちゃって……。大好きで、胸が、ドキドキ
 して……」
「まつり……」
「柊哉の言葉が、もっと欲しい。もっと……近付きたい。
 この感情は……我慢しなきゃ、いけないこと?」
「だって……、だって、それは……!
 それ……は……、だって、僕は……まつりは……」
「……うん。あたしは幽霊で……
 でも、ちゃんと生きてる。貴方の、傍に居られる存在。
 死んだ時から、止まったままじゃなくて……人に出会って、少しだけ考えが
 変わったりして。
 これって、『生きている』ってことじゃ……ないかな?」

 僕だって、知ってた。気付いてた。
 まつりに、惹かれていく自分に。けれど、必死で、自制して。
 けれどその壁をまつりが壊す。

「ねえ、手、繋いで? あたしに、触って?」

 黙って、まつりに触れた。その手を、優しく握る。
 手は繋げても、実体があるように見えても、そこには何もない。肌の温か
 みも、柔らかさも感じられない。
 空気に、形がある。そんな感覚で。重さも何も、存在しないのに。
 体温は、伝わってこない。心臓の音なんて、もちろん聞こえてこなくて、
 息だってしてなくて、それでも。

 どうして、こんなに愛しいのかな。
 愛しくて、愛しくて、胸が苦しいよ。まつり。

「まつりは……、まつりは、不安じゃないの?」
「……そんなことは、ないよ。あたしだって、いっぱいいっぱい、考えたん
 だよ」

「でもね……
 この先に、どんな辛いことや悲しいことがあってもね……
 それよりずっと、柊哉と居て幸せなこと、楽しいこと、嬉しいこと、いっぱい
 待ち受けてるって、思うんだよ」
「……幸せな、こと……」
「きっと、このままお友達でるより、ずっとたくさんのこと、お互いに、知って
 ……
 柊哉となら、そうやって、生きていけると思うの。だからね、伝えたんだよ。
 あたしは、そう信じてる。柊哉は……?」 「僕も……」

 まつりが全てを含めてそう決めたなら。信じて、くれるというのなら。
 答えは一つだけ。決まってた。

「好きだよ。まつり」