すっかり遅くなってしまった……
 杏は大丈夫だろうか? おなかを空かせてないといいけれど……

「……お、おかえりなさい!」

 玄関の扉を開けると、杏の声が飛び込んできた。
 どうかしたのだろうか? 少し焦っているような。

「ただい…………ま……」
「う……、う……、お、おかえりなさい……」、

 ……多くを、語る必要はないと思う。
 杏はいつも付けている白いエプロンを、付けていて……
 いや、その、なんていうか……
 いつも付けている白いエプロンしか……、付けて、なくて……

「あ、あの……! に、兄さんが、遅くて!」
「えっ!?」
「お掃除もしましたし、食事も作りましたし、少し溜まっていた洗濯物も
 洗いましたし!
 で、でも兄さんが帰ってきてくださらなくて、それで少し退屈になって
 しまって……!
 に、兄さんのために出来ることがないか、すごくすごく考えまして!
 調べたりもしまして!
 そ、そしたらちょっと変なテンションになってしまって!
 そ、それで、こう……」
「う、うん……。経緯はわかったけど……」

「う、うう……駄目でしたで、しょうか……?」
「いや……、駄目じゃ、ないけど……」
「……喜んで、もらえなかったでしょうか……?」
「いや、そういうわけじゃ、ないけど……」

「……か、可愛い……でしょうか……?」

「……か、可愛い、けど……」!

「どきどき、して、もらえないで、……しょ、しょうか……」

「……どきどき、してる」

「あ、ああ……、うう……。兄さん、近いです……」
「可愛いよ。杏……」
「う……うう、良かった……。良かったです……」
「お掃除も洗濯も、お料理も、本当にありがとう。それから、この格好も……
 ……まぁ、間違ってないわけじゃないけど……」
「ま、間違ってますか!?」
「ん……、でも、僕のために何かしたいって、杏がいっぱい考えてくれた
 から……、それが嬉しい」
「い、いえ……、そ、そんな、兄さんのためなら、当然のことです……」