袴に着替えると、どこか心が洗われるような感じがした。
 ついに……本番なんだ。
 全てを出しきれるよう……、少しでも、南須原さんに近付けるよう……
 僕は、竜笛を吹く。

 一人の笛の音に合わせて……、南須原さんたち……
 神の使い……巫女たちが壇上へと上がってくる。
 本来ならば笙など……多くの和楽器を使う曲を、竜笛のみにアレンジして
 ある。

 踊り手全員が入場し……、僕も笛を構えた。

「…………」

 笛の音色に合わせて、大幣を正面へと構える。
 普段練習している時とは全然違う……真剣さが滲み出ていた。

 僕も……もう、足を引っ張るわけにはいかない。

「音の長さをちゃんと意識しなさい。伸ばすところはちゃんと伸ばして」

 南須原さんが教えてくれたことが思い出されて……

 練習したこと……教えられたことが、頭の中を駆け巡るみたいで……
 自分の吹いている音が、なんだよく聞こえて……すごく緊張する。
 本堂いっぱいに……音が響き渡る。

「…………」

 真剣そうに目を伏せ、トンと、丁寧に一歩を踏み出す。
 音色は少しだけ寂しくなり、巫女たちは少しでも神の怒りを鎮めようとす
 るかのように……
 動きを合わせ、大幣をゆっくりと丁寧に振る。

 僕も、周りの笛の音に合わせ……少しずつ吹く力を強くしていく。
 南須原さんにもよく注意されたことだった。音を強くするに従って、音が
 汚くなると。
 少しでも……綺麗な音を……
 少しでも……丁寧に……

「…………」

 ゆっくりと……曲が穏やかになっていく……
 柔らかい……永久への祈り。
 人々の幸せを願う……温かい音……
 柔らかく、そうしてゆっくりと、静まって行く……