「……奏菜、ちゃん……」

 奏菜ちゃんは部屋の中心に座り込んでいた。
 カーテンはきっと、朝から開けていないのだろう。暗くなっても、電気すら
 付けないで。
 この間まで集めていたと思われる、いろいろな資料が、奏菜ちゃんのまわり
 に散らばっていた。

「柊哉……くん……」
「奏菜ちゃん……、大丈夫……?」
「来て……くれたんだ。私……こんなんなのに……」
「当たり前だよ……。ずっと、心配してた……。
 ごめん……もっと早く、くればよかった」
「…………。学校、行けなかった」
「うん……」
「行こうと、したんだよ? ちゃんと、着替えて、準備して……、でも、
 だめだった」
「……うん」
「……私、悪い子だね。学校サボって、電話にも出ないで……、学校に行っても、
 誰とも話そうとしないで……」
「……そんなこと、ないよ」
「柊哉くんも……、私のことなんか、嫌いになったでしょう?」
「そんなこと、あるわけない」

 床に座り込んでいる奏菜ちゃんは、僕を見上げない。
 その声には涙が混ざっているのに。
 僕はその顔を、覗き込めない。

「柊哉……くん……
 駄目なんだよ、私みたいな弱い子が、力持ってちゃ。
 人のためになんか、使えない。だって、私はいつだって、自分のこと
 ばっかりで……
 自分のことばっかりな自分が嫌いで、だから、誰かのためになるように、
 振舞って、そうやって……

 でも……出来ないの。痛いのは怖いの。
 誰かが、傷付くのも、自分が傷付くのも、怖いよ」

 目元に涙をいっぱい溜めて……、奏菜ちゃんは顔をあげた。
 僕の方を、まっすぐに見つめる。

「いっぱいいっぱい、考えたんだよ……?
 でも、答えが見つからないの。もう、一人で決めれないの。
 決めれなく、なっちゃったの。
 いろんな選択が、間違ってたような気がして、戻りたいけど戻れないことを
 思い知らされて。
 私……、どうして……

 私……、どうしたら、いいのかなぁ……?

 決めて……、決めてよ……柊哉くん……、教えて……」

「奏菜ちゃん……」

 全てを、自分で決めてきた奏菜ちゃんは、そう言って僕に助けを求めてきた。