「やあ――見つけたよ」

 突然の声に、思わずたじろぐ。辺りを見渡すが、俺の他には誰もいない。
 ……恐る恐る、声のしたほうを向く。
 そこに、少女が立っていた。階段の数段上に立って、俺を見下ろしている。
 制服の上に不可思議な……マント……じゃないな。ケープのようなものを羽織っている。
 銀色の髪は光を浴びて煌めき、茶色い鹿撃ち帽を被っていた。
 左側には蝶の髪飾り……胸元には蝶の模様が入った懐中時計を付けている。
「こんにちは」
 少女はそう言って、俺に笑みを向ける。逃げたい。近付いちゃだめだと、本能が言う。
 こいつ、絶対に変なやつだ。

「和久井新くん……」俺が返事をせずにいると、俺の顔を見ながら、もう一度言う。
「和久井、新くんだね」
「……違います」
 思わず、そう言ってしまった。すぐにばれる嘘を吐いてみたが、少女は以外にも、
 驚いた表情を浮かべた。
「えっ、い、いや……、和久井新くん……だよね? ボク、ちゃんと確認したし……、
 え、なんで? なんで? 学生証……学生証見せてくれないか……?
 あれ……?」
 少女は思いっきり、戸惑っている。
 このまま人違いを突き通して、逃げてもいいかもしれない。
「あの、和久井新くん、だよね? 突然声を掛けてすまない。
 その、ちょっと聞きたいことがあって探していたんだ」
 少しおろおろしながらも、はっきりした声で少女が言う。
『聞きたいことがあって探していた』と言われたら、さすがに無下にはできなかった。
「そういうことなら……えっと、俺が、和久井だけど……」
「やっぱり! やっぱりそうじゃないか! なんで嘘を吐くんだいっ!?」
 《下手:したて》に出たら、思いっきり強気に出られた。
「ボクは、2年F組、《前園霧架:まえぞのきりか》。
 君……、紅鶴会で、この街で起きてる行方不明事件の捜査を依頼されたね?」
「どうして、そのことを……?」
 最初に、にちかさんが俺を紅鶴会に呼んだとき、理由は聞かされていないと言っていた。
 つまり、捜査のことは紅鶴会内部の人間でも、まだ少数にしか話していないのだろう。
 なのに、目の前の……前園霧架と言う少女は、捜査のことを知っている。
 あの会長が話した?
 いや、期待はしてないようだったし、言いふらすような人ではないと思う。
「この事件は、この街の不思議と深く関係している。
 これは、ただの行方不明事件じゃないんだ」
 少女は……真剣な表情で、俺を見つめる。
 少しだけ紫を帯びた、澄んだ瞳。俺は彼女から――目を逸らせない。

「だから……ボクと、この事件を捜査しないか?」