通常、学園の学生会室と言えば、本棚に大量の過去の資料などが入っており……
 学生たちは資料を探しながら、今年度の新しい資料などを作ったりしているはずで。
 少なくとも俺の想像する「紅鶴会会議室」はそういう場所だった。
 内装もすごいと聞いてはいたけれど、それだってまさか、こんな部屋だなんて想像して
 いなかった。
 目の前には堂々と椅子に座る一人の少女。
 周りにはまるでお付きのように、二人の少女が立っている。
 ……まるで「城」だ。
 世界を救うようなRPGで最初に呼び出される、王国の王妃様に会ったような感じだった。
 こんな学生会室を、俺はアニメや漫画の中でしか見たことがない。
 それがまさか、うちの学校にあるだなんて。、
「貴方が和久井新くんかしら。いらっしゃい」
「あ……ああ……。えっと……」
 目の前にいる少女が黒く長い髪を揺らしながら、俺の名前を呼ぶ。
 あまりの威厳に思わずたじろいでしまった。落ち着け。
 目の前にいる少女には見覚えがあった。
 紅鶴会会長……先日選挙が行われたはずだから上級生は既に引退している。
 目の前にいるのは、俺と同学年の少女のはずだ。名前は何と言ったか……。
「こちらへ」
 会長の傍に居た、眼鏡をかけた少女に指示をされ、俺は部屋の右側にあるソファに
 座った。
「突然呼び出してごめんなさいね。驚いたでしょう? 紅鶴会会長を務めさせて頂いて
 おります、《綺堂雫:きどうしずく》と申します。名前くらいは知っている?
「ああ……、先日選挙もあったから……」
「そう、それなら良かったわ」
 微笑みながら、長い髪を後ろに払い、足を組む。
 豪華な革の椅子に腰かけ、肘掛に肘を付き、まっすぐに俺を見ている。
 その威厳たるや、まさに、女王の如し。このままでは威圧感に飲み込まれてしまう。
 ……だめだ。このままでは、断れなくなる。先手を打たないと……。
「今日は貴方にお願いがあって」
「あの、そのことなんですが」頑張って、強気に出てみた。
 「にちかさんに話を聞いても、要件がなんだかわからなくて、不審に思っていたんです。
 呼び出すのならせめて、要件を言うべきではないでしょうか」
 言った! 言ってやった! これで手伝いは頼み辛いに違いない……。
「あら、そう。それはごめんなさいね」
 会長は悪びれもせず、答える。「それがどうしたの」とでも言うように、平然と。
 俺は思わずもう一度身構える。
「あまり、人のいるところでは話せないことだったから、ここまで来てもらったのよ」
「それって、紅鶴会の手伝いとか……」
「手伝い……ね。単刀直入に言うわ。
 貴方に、この街で起きている行方不明事件の捜査をしてほしいのよ」