「こら、危ないから、走り回らないの。
「お姉ちゃん、ご本読んで〜」
「ねえ、お外で遊ぼうよ! せっかくいい天気なのに!」
「だーめ、今日は神様のお勉強の日でしょう?」
「俺も外で遊びたいっ。姉ちゃん、いいだろ?」
「だーめ。そんな悪い子は、お昼ご飯抜きになっちゃうんだから」

 霧架。
 修道服に身を包んだ少女は、紛れもなく霧架だった。
 子供たちに囲まれて……、いつもとは違う優しい口調で、子供たちに本を読み聞かせて
 いる。

「じゃあ、今日は52ページから。みんな、先週私がした話、覚えてる?」

 「私」と、霧架が言う。
 いつもより高い、優しく穏やかな声で。

「それじゃあ……ここから話すね。昔々……」

 思わず聞き入ってしまう。
 教会で、修道服を着て……その姿が、あまりに綺麗で。女性らしくて。
 自分が覗き込んでいる身分だというのも忘れて、立ち尽くしてしまう。

「それから神様は……」
「あれ……? お兄ちゃん、だぁれ?」
 扉の外に居た俺に、女の子が気付く。
「えっ……、あっ……」
 子どもたちの視線が、俺に釘付けになり、霧架の顔が、見る見るうちに硬直していく。
「えっ……?
 えっ……、えええええええっ!?
 な、なんで!? 新くん……!! どうしてここに!?」
「霧架お姉ちゃんの知り合い?」
「い、いや、ちょっと! ちょっと届け物というか! えっと……!」
「ちょ……ちょっと待ってくれ……、……あ、あ、いや……っ!
 お、お母さんっ! おかあさーんっっ!!」
「ご、ごめん!」