雫はイチゴの乗った豪華なクレープを頼み、俺はチョコレートソースのシンプルなものを
 頼む。
「ほら、見て? いちごの数が少ないのを生クリームとチョコソースでごまかしているわ」
「そういうこと店の前で言っちゃだめです」
「冗談よ。ふふ、すごく美味しそう」

 幸せそうに、雫はスプーンで生クリームを一口掬い、口に運ぶ。
 目元を細め、そっと微笑んだ。

「美味しい」
「こういうの、家では食べないのか?」
「そうね。基本的に管理されてるから、甘いものは少ないわね」
「そうなのか……。それ、寂しくないか?」
「どうなのかしらね……。私も、欲しいって言ったことないから。
 というか、一人で食べても美味しくないでしょう?」
「そうか……一人なんだもんな」
「でも、貴方とこうやって食べるのはいいわね。そうだ。私の、一口食べる?」

 雫はそう言って、スプーンで丁寧にアイスを掬い、俺の前に差し出す。

「えっと、いいのか?」
「ええ。どうぞ?」

 そっと微笑む姿が可愛くて、ちょっとドキドキしてしまう。
 俺はゆっくりと、顔をスプーンに近付けていく。

「あらいけない、アイスが溶けちゃう」
「…………」
 雫はそう言ってスプーンを自分の口に運ぶ。
「あら、ごめんなさい、貴方が早く食べないから悪いのよ」
「……そうですか……」
「はい、もう一回」
 今度はなるべく早く食べようとする。
「えいっ」
 ……あむあむと、雫はクレープを自分で食べる。
「えいって言った!」
「違うわ、垂れそうになってたから、仕方なかったのよ? わからない?」
「全然わからないです」
「全くこんなに美味しいのに食べられないなんて可哀想ね?」
「もう一回!」
「あら、それが人に物を頼む態度? もう少し言い方があるんじゃなくて?」
「……すいません、一口ください」
「はいはい。……あーん」
「あー……、んっ」
「あああっ!」
「やっぱり自分で食べたくなって食べちゃったわごめんなさい」
「ひどすぎる……! そうだ、俺の一口食べないか?」
 散々いろいろやられたし……、今度はこっちが……。
「えっ、いらないわ」
「なんでだよ! うまいし!」
「見ただけで私のクレープのほうが美味しいってわかるし。
 わざわざ頭を下げてまで食べたくない」
「…………」
 そうでした、こういう人でした。
「それとも、どうしても私に一口食べてほしいとでも言うの?」
「じゃあ、どうか一口食べてください」
「あら、そう。いただきます」
 雫は俺のクレープをひょいと自分のスプーンで掬って食べる。
「…………」
「本当。美味しいわね」 
「……俺も! 一口寄越せ!」
「あら生意気。ちょっと、汚いスプーン近付けないでくれる?」
「汚いって言うな! よーこーせー!」
「いやっ、いーやっ、ちょっとこっち来ないで!」
「いちいち酷いな!」