桜庭先輩に連れられ……小さな公園に入る。
 そこは12月も半ばだと言うのに、まだ落葉が始まったばかりのように感じた。

「和久井くん……。
 あのね、お礼が言いたかったの。私の傍に居てくれて、ありがとう。
 辛い時にね……、貴方の声が光になったわ。和久井くんが居てくれたから、怖いって
 気持ちが、少しずつ……薄れていった。
 あの時……辛くて……苦しかった。自分がこれからどうなるのか、わからなかった。
 そんな私を、和久井くんが、救ってくれたんだよ」
「桜庭先輩……」
 萌美先輩は俺を真っ直ぐに見つめる。少しだけ潤んだ瞳から、目が離せない。
「だから……えっと、それだけなんだけど……。ごめんなさい、えっと……。
 ごめんなさいねっ。
 なんか……ありがとうって言いたかっただけで……それだけ……で……」
「それだけ……ですか?」
「そ……、それだけ……よ……? いえ、それだけじゃ、ないけど……でも……」
「じゃあ……、俺も桜庭先輩に伝えたいことがあります」
「……うん……」
「俺は、桜庭先輩が頼ってくれて、嬉しかったです。
 桜庭先輩が、笑ってくれて、喜んでくれて、その一つ一つが……嬉しくて。
 ……もっと笑って欲しくて、もっと傍に居たくて……」
「和久井くん……」
「頂いたアップルパイも、すごく美味しくて……、もっと食べたいって、思ってしまいました」
「……ふふっ。良かった……」
「……俺は……
 俺は、桜庭先輩が好きです。俺と、付き合ってくれませんか?」
「……私……と……?」
「……はい。あの、困らせてしまったら、すいません。
 こんなこと言って、もう頼れないとか、迷惑とかなら、えっと……」
「ううん。そんなことない……。ごめんね、言わせちゃった。
 私、和久井くんのことが好き。もっと……貴方の特別になりたいの。
 傍に居たいし……居てほしい。
 そう、言おうと思ったの。だけど、いざ……言おうとしたら……怖くて言えなかった」
「桜庭先ぱ……」
「萌美。萌美って……呼んで? 和久井くん」
「……萌美」
「うん……」
 萌美は……小さく頷いて、そっと目を瞑った。萌美との距離が、近付いていく。
「ん…………」
 柔らかい、萌美の小さな唇。吐息が届く位置に、彼女がいる。
「よろしく……お願いします」
「こちらこそ……よろしくお願いします」
 生まれて初めて、好きな人が出来て、想いを伝えて。
「和久井くん。行こう?」
 そうして……、一歩を踏み出した。