みちるから渡された譜面に目を通してみる。
ファーストは少し難しいけれど、セカンドはそうでもない。これなら大丈夫そうだ。

「ここの合わせるところはボーイングどうしてる? 揃えた方がいいかな?」
みちる 「ああ、そうね。二人だとそういうことも考えられて楽しいわね
 ええと……最初で上に。そこから下で、上少しひっかけて。そのあと一回根元に戻して、下ね」
「わかった」

楽譜に↑↓↑↓などと矢印を書いて行くと、なんとなくだけど懐かしい気持ちになる。

みちるはチューニングも終わったらしく指練習を始めている。
みちるの立ち振る舞いは綺麗だ。姿勢も少しも崩れないし、非の打ちどころがなく、何度も見とれてしまいそうになる。

みちる 「あら、もう弾ける? 初見でいいのかしら?」
「え……あ……、ちょっと待って」

難しい曲ではないけれど、流石に初見ではきつい。真面目に楽譜を追い始めるとみちるに笑われた。

みちる 「それじゃあ合わせてみましょうか」
「ああ。間違えたらいなくなるかもしれないけど、勝手に続けていいよ」
みちる 「ええ、わかったわ。早めに復帰してね」

しんと静まりかえった中で、みちるが弓を引く。始まった。
俺が演奏を開始するのは8小節後。それまではみちるがゆっくりと曲を盛り上げていく。

みちると目配せをして、入る。
2台のヴァイオリンの音がハーモニーとなって、美しい音色を奏でていく。
いや……、このままだとみちるに遅れをとりそうで、少しだけ焦る。……上手い。
傍で音を聞いているだけとはまた違って、自分の音とは全く違うことを自覚させられる。
あの音に合わせたいのに、うまくいかない。

……もう少しだけ、重さを乗せて……
みちるの弦の動きを目で追いかける。

指の力を抜いて……、そっと入って……
次の音は……