本棚や椅子に隠れるように、二人の少女が床に座っていた。
本を読んでいるのだろうか? 床に置かれた本を覗き込むようにして、二人で一冊の本を読んでいた。
声をかけるべきか悩んでいると、二人の方が俺に気付いて視線を上げた。

空音・陸乃 「……こんにちは」
「あ、……こんにちは。」
みちる 「こんにちは、空音、陸乃。大丈夫? 邪魔じゃない?」

空音・陸乃 「大丈夫。……はじめまして。ちゃんと挨拶、してなかった」
「ありがとう、初めまして。櫂です。ここで暮らすことになったので、よろしくね」
空音・陸乃 「かい……、よろしく」

二人はそれだけ言うと、本の方に視線を戻した。
コミュニケーションはとれるみたいだけど、俺としてはどうしても二人の動作や言動のほうが気になってしまう。
二人とも同じなんて……

みちる 「不思議な双子でしょう?」
「え、ああ。……二人で同じことを言うのか?」
みちる 「ええ。動作も基本的には一緒よ。細かいところはやっぱり違うみたいだけれど」
「そうなのか……、空音と陸乃か……。どっちが空音で、どっちが陸乃なんだ?」
みちる 「さあ、どうなのかしら」
「……さあって……」
みちる 「直接聞いてみたらいいと思うわよ。私にもわからないから」
「えっと……、どっちが空音なんだ?」
空音・陸乃 「……わたしがそらね、わたしがりくの」

「…………」
みちる 「わかった? 二人とも空音で二人とも陸乃なのよ。きっと」
「でも、それでいいのか?」
みちる 「本人たちがそう言うのなら仕方ないじゃない?
 それに、いつでも二人で一緒にいるから、個別に名前を呼ぶこともないし。
 二人ともとても良い子よ。口数は少ないけれど、聞かれたことにはちゃんと答えるわ」
「そうなのか。じゃあ、何か聞いてみようかな……」

興味本位から、俺はしゃがみ込んで二人に視線を合わせる。読んでいる本を少しだけ覗きこんでみた。

「えっと、二人とも、何読んでるんだ?」
空音・陸乃 「……みっしつ。3重の、密室、なの」
「ミステリーか。」
空音・陸乃 「かい、いるよ。」

そう言って二人は少しだけページを戻して、ある個所の文字を指さした。
登場人物の名前なのか、「カイ」というカタカナの名前が出てきている。その次の行にもあった。

「へえ、どんな役なんだ?」
空音・陸乃 「……さっきしんだ」
みちる 「ふふ……っ」

……吹きだされた。

みちる 「ごめんなさい、つい……」
「……そろそろ生き還るかもしれないよ?」
空音・陸乃 「死んでなかったら、犯人だよ?」
みちる 「二人とも、今度は別の「カイ」が出てくるお話、探してあげてね」
空音・陸乃 「うん」

俺が別れの挨拶を告げる前に、二人はまた真剣に本を読み始めた。
「カイ」を殺した犯人とやらを捕まえる、一部始終を見届けに。