みちるも靴を脱いで、スカートのすそを持ち上げながら、そっと湖の中へと入っていく。

櫂   「大丈夫なのか?」
みちる 「ええ、この辺りは浅瀬になってるから。
 櫂もいらっしゃいな。気持ちいいわよ」


「ええと、じゃあ、少しだけ……」

靴を脱ぎ、靴下を揃えて、ズボンのすそをまくりあげる。裸足になってみると、冷たい葉っぱの感触が心地よかった。
ゆっくりと水の中へと足を沈めて行く。足首の辺りまで浸かったころに、足の裏に石が触れるのを感じた。

みちる 「気持ちいいでしょう?」
「ああ。この程度の深さなら子どもたちも遊べていいな」
みちる 「この辺りは大丈夫なんだけど、場所によっては突然深くなってて。あと……、そうね、あの辺りとか」

みちるはそう言って湖の奥の方を指さす。

みちる 「あの辺りは深くなっているから、あんまり近寄らないようにって言ってるの。
 あ、でも、知紗が泳ぎは得意だって言ってたから。いざという時は助けてもらうといいかもしれないわ」
「いや……、気をつける……」
みちる 「ふふ、あんまりここの湖は泳ぐのには適さないの。いくら暑くても飛び込んだりしたらダメよ?」

白羽 「えーいっ!」
深雪 「しぃちゃん、やぁだ! 目に入っちゃうよぉ」
白羽 「ほらほら、反撃しておいで!」
優希 「拓真、深雪が悪い奴にいじめられてるから助けておいで」
拓真 「うんっ! よーしっ、白羽、勝負だ!」
白羽 「勝負? よくわかんないけど、負けないんだからぁ!」

みちる 「あの子達ったら……」
「大丈夫じゃないかな。このくらいの年の子なら、走り回るのが普通だと思うよ」
みちる 「そういうものなのかしら……?」
「みちるはそういう環境で育ってはいないのかもしれないな」
みちる 「そうね、そうかもしれないわ。だから、時々接し方がわからなくて」
「苦手なことだってあるのは仕方ないんじゃないのか? その分……」

知紗 「コラっ! 転んだらどうするのっ、危ないでしょ!」
知紗 「大人しくできないんだから、水から出て遊びなさい!」
「……ほら」
みちる 「……そうね。私の出来ないことは、知紗が補ってくれて……
 でも……」
「足りないものを求めてしまう?」
みちる 「そうね、こういう場所だからなおさら……」

みちるはそう言って目を伏せる。俺なんかがこんなこと言って、不快な思いをさせてしまっただろうか?
みちるは俺よりもずっとこの場所に居て、いろんなことを考えてきただろうに……

みちる 「えいっ!」
「うわ……!」

みちるが突然、少しだけ足をけり上げて、俺の方に水を掛けてきた。
膝までめくりあげたズボンの裾に、少しだけ水しぶきの跡が付く。

みちる 「それくらいなら、すぐ乾くでしょう?」
「それはそうかもしれないけれど……」
みちる 「ごめんなさい、ちょっとやってみたくなったの。楽しいかなぁって」
「はぁ……」
みちる 「励ましてくれてありがとう。嬉しかったわ」