「外にいる人は、閉じこめられた鳥を見ながらきっと、可哀想って言うのよ。
   飛べないなんて、自由を奪われるなんて、可哀想って。
   だけど、籠の中にいる鳥からしてみれば……
   いつでも気温管理して貰えてて、ご飯も食べれて、愛して貰えて。
   私は今、これ以上の幸せ、ないのよ?
   お金の面はある程度、心配することないみたいだし」

  「でも、ずっとここに居て……幸せになれるはず、ない」

  今はいいかもしれないけど、学園を卒業したら?
  透子がここにいるなら、俺はずっとこの街にいたっていい。
  だけど、みんなは?
  就職したり、将来的に街を離れるかもしれない。
  それに、透子の将来はどうなる?

  「みんなが幸せなら、幸せだわ。
   だって、インターネットもあるし。
   卒業して、みんな幸せになっても、お話できるでしょう?
   『めしてろ』……って言うの?
   伊鶴が言ってたけど。美味しいご飯とか、いっぱい写真撮って送ってね」

  「……食べてみたくならないの?」

  「いいわ。見れるだけでおなかいっぱい。
   あ、でも時々こっちに戻ってくることがあったら、おみやげとか欲しいわ。
   仕事も、ネットでできる仕事見つけられるといいわね。
   いつまでも伊鶴のお世話になるわけにもいかないし」

  「透子……。どうして。
   どうして、それだけでいいって……言うんだよ」

  もっと、みんなを頼ってほしい。甘えてほしい。
  こんなところに居たくないって言ってくれたなら、
  俺たちはどんなことでもするのに。

  「どうしてって……私は、殺人犯なのよ?
   この手で、人を殺したの。
   人が生まれるって、生きていくって、大変なことよ。
   長い長い時間も、想いも、記憶も、その人がするはずだったことも。
   その人が関わってきた人たちと過ごしてきた時間も。
   過去も、現在も、未来も。
   私は奪ったの。一瞬で。
   それが、人を殺すと言うことよ。
   誰だって、許されることはない。
   罪を償ったところで、お金を払ったところで、一生許されない大罪。
   それを、私は犯したの。
   なのに……罪を償うこともなくて。今、こんなに幸せよ」

  「……俺は、そうは思わない。透子が、人を殺すはずなんてない。
   透子が何もしていないなら……透子は、奪われてるだけじゃないか」

  「何もしていないことないから、ここにいるんだけどね。
   でも……関わるはずもなかったであろう、夜や伊鶴とも仲良くなれて。
   ……悪くはないわね。共同生活。
   楽しいわよ。ぐるーぷとか、すまほとか。あと、すたんぷ。
   きっと、普通に暮らしてたら、もうしばらくは知ることなかったでしょうね」

  「確かに、透子、いろんなこと覚えたかもね」

  「そうね、料理も少し覚えたし」

  「それはどうだろう」

  「あと、がちゃと、ろぐいんぼーなす」

  「それは覚えなくていいけど」

  「まあ、それは冗談だけど」

  「……人が一人で生きて、知れることには限界があって。
   だから、良かったと思うの。こういうのも。幸せ。悪く、ないわね。
   私はずっと遠ざけて生きてきたから。
   自分の手で守れる人しか、大切に思わないって決めてた。
   夜と伊鶴だけじゃないわ。みおんと陽太のことも。
   みおんも……少しずつ変わっているのが見えて。
   なんだか嬉しい。母親のような感情ね、これは。
   私と離れたお陰で、みおんには友達ができたわ。
   それから、陽太のことも。
   友人として時々話すだけじゃ、知れないこと、いっぱいあった気がする。
   家族になって、少しだけ見えるものが変わってきた」

  「……家族、か」

  「今はね、すごく、頼りにしてるわ」